顎関節症の症状は患者さんによってさまざま

顎関節症は、歯科の中でも、齲蝕や歯周病とは少し違う疾患です。齲蝕や歯周病はどちらかというと患者さんの訴えと歯や歯肉の状態が一致している場合がほとんどであり診断、治療法も確立しています。

顎関節症は、その一般的な病態はわかっておりますが、その症状は、患者さんによりそれぞれ異なります。

一つの症状を示すわけではない

顎関節症は、顎関節の症状を主体とするもの、咀嚼筋という筋肉の症状を主体とするものに大きく分かれ、顎関節の中でも、関節円板(顎関節に存在する骨より軟らかい、骨ではなく線維組織がまとまった軟骨様の組織)が問題となるもの、関節の変形が問題となるもの、関節包・靭帯の炎症などと、さらに別れます。つまり顎関節症は、一つの症状を示すわけではなく、いくつかの症状を示すものをまとめた診断名です。

オーダーメイドの治療が必要

ですから顎関節症と一口に言っても何を原因とした顎関節症かで対応が異なります。また同じような症状を示すものでもその背景にあるもの(生活習慣や生活環境)により対応が異なります。ストレスなどにより症状は変化するもといわれています。そのような意味では、顎関節症は、患者さん一人一人に合ったオーダーメイドの治療が必要であるわけです。

ただ、現在の歯科界においては、インプラントや審美歯科などに関心が集まり、顎関節症や口腔顔面痛などには、あまり目が向けられていないのが現状です。歯科疾患は齲蝕、歯周病など歯科医にとっても、患者さんにとってもわかりやすい症状がほとんどで、診断よりもどちらかというと技術が主体の医療となっています。技術が良くなければいけないのは当然のこととしても、歯科医は、いかに上手く作っていくかということに目が行き、疾患に対して深く考えるということに慣れていないのかもしれません。

患者さんの多様化

近年、患者さんの症状は多様化しています。歯が痛いのに歯に原因がない痛み(非歯原性疼痛)なども最近メディアに取り上げられるようになってきました。

しかし多くの歯科医はその診断の術をしりません。また顎関節症に対しての考え方も大きく変わりました。かみ合わせが最大の原因と言われて、どんな症状に対してもかみ合わせの治療を行い、歯を削っていた時代から、原因はかみ合わせ一つではなく、上下の歯を接触させる癖などの生活習慣、ストレス、歯ぎしりやもともとの筋肉や関節の弱さなどが積み重なり個人の許容範囲を超えると症状として現れるという考え方が、今は世界的に認められています。

積み重なったものの大きさが変わると症状は変化する。ですから日によって症状が異なったり、また朝と夜とで症状が異なるということが起きるわけです。

顎関節症(TMD)基本声明

2010年3月に米国歯科研究学会(AADR)という世界的に権威ある会から「顎関節症(TMD)基本声明」が出されました。

この背景には日本だけでなく世界的にも顎関節症(欧米ではTMD)に対する考え方や治療が統一されておらず、歯科医の思い込みではないかと思われるような治療で、症状が悪化してしまう患者さんが多いということがあります。

この中で顎関節症の鑑別診断は、基本的には患者さんからの病歴を聞くこと、身体の診察、と必要ならば画像検査が重要であり、歯を削ったりするような非可逆的(もとにもどらない)治療と保存的・可逆的(後戻りできる)治療では、治療効果にほとんどが差がないので、後戻りのできる治療を第一選択にすべきと書かれています。また専門医の指導の下、患者さん自身が行うリハビリも効果的であるとされています。

顎関節症の初期治療と咬合調整

先日、顎関節学会のガイドラインパネル会議というガイドラインを作る会議に出席いたしました。

今回のテーマは「顎関節症の初期治療と咬合調整」でした。かみ合わせが顎関節症の唯一の原因であり、かみ合わせの調整で歯を削ることが一般的であった時代がありました。

現在は顎関節症の症状は、基本的には時間とともによくなる場合が多いとされていますので、症状が良くなった原因は、かみ合わせの治療ではなく時間経過によるものであった可能性が高いことや、上下の歯が接触している時間は1日20分~30分程度であり、上下の歯を接触させる癖が症状を起こしており歯を離すようにすることで症状が改善されること、さらにはかみ合わせが悪くなった原因は関節や筋肉が痛んで顎の位置が変わってしまったために起きており、症状が改善すると元に戻ることがあるため、あわてて削ってしまうとかえって悪くなることなどから、症状が出た最初の段階では、悪習癖や生活習慣の改善や理学療法(温めたり、マッサージ、ストレッチなどのリハビリ)、薬を飲んだりというと治療を行い、よっぽどのことがない限りはかみ合わせの調整をしないというのが、現在の顎関節治療における常識となっています。

顎関節学会HP顎関節症患者に対して咬合調整は有効か(一般歯科医師編)というガイドラインとして掲載されています。「顎関節症の初期治療において、かみ合わせの調整はしない。」と書かれています。

顎関節症の原因にはかみ合せも関連

顎関節症の原因は、いろいろありその中に「かみ合わせ」も入っています。かみ合わせも原因の一つとして重要ではありますが。かみ合わせは、関節や筋肉の状態で変わってしまうものなので、かみ合わせの診査、治療を行う前に、十分に関節や筋肉の状態を診なければいけないということであり、関節や筋肉の状態が良くなればかみ合わせは問題なくなる場合も多く、そのうえで必要があればかみ合わせを治すというのが現在の顎関節症に対するスタンスです。

専門的な歯科医不足

ただ、インプラントや審美に注目が集まっている現在の歯科界の中で、顎関節症、もっと言えば顎の機能について本当にわかっている歯科医は少ないのが現実です。この問題の一つに、現在の保険制度があげられます。現在の保険制度は、顎関節症治療の現状に追いついておらず、顎関節症の治療は、ほとんど網羅されていません。

話を聞くことが重要

顎関節症の治療を本当に行おうとすると、症状にある背景をしっかり見つけるための医療面接(話を聞くこと)に時間がかかります。また保存的・可逆的療法は、スプリントというマウスガード様の装置のみ保険に入っていますが、調整に制限があり月1度しか調整できません。

つまり世界的に認められている治療を行い顎関節症の患者さんが増えると歯科医院はつぶれてしまうことになり、学会ではいつもこのことが問題となっています。そのため顎関節症の治療を行おうという歯科医は少なくなり、顎関節学会においても会員は減少し続けています。またかみ合わせの調整は保険で認められているために、安易にかみ合わせの調整が行われているのも事実です。ただかみ合わせは、歯科治療の基本であり本当に大事なものです。

日本の保険制度について

日本の保険制度は、誰にでも最低限の治療は受けられるようになっているすばらしい制度と思います。しかし卒業したての先生が治療しても、何年も臨床を勉強した先生が治療しても治療費は変わりません。また出来高制ですので、治療を行った量だけ保険収入が入ることととなります。よく言われている話ですが、数十年前は、日本も北欧も齲蝕や年齢とともに歯が喪失する数は変わりなかったといいます。日本は皆保険制度のもと歯科医を増やし、誰でも悪くなれば保険でどんどん治療を受けられるようになりました。

北欧では、悪くならないように予防に力を入れました。その結果、日本では安易に治療が受けられることから「悪くなれば治せばいい」という考えが広まり、予防という考えは保険にも導入されず忘れさられてしまいました。北欧、特にスウェーデンでは現在は齲蝕は減少し、20歳での齲蝕本数は、日本では1人平均9.2本に対して、スウェーデンでは4本以下と言われています。

かみ合わせを勉強している歯科医が少ない

そのため日本ではどんどん歯を治すこととなり、顎に負担がかかり他の国よりも、顎関節症におけるかみ合わせの占める割合は多いかも知れません。そこで顎関節症においてもかみ合わせの評価を正しく行うことは必要であると思いますが、実はかみ合わせを勉強している歯科医が少ないという現実もあります。またそこにはかみ合わせの診査は保険には入っていないという驚くべき事実があります。

患者さんのためになる治療を行うために

そこで2014年2月1日より保険の制約に影響されず、本当に患者さんのためになる治療を行うため、顎関節症の治療を保険外とさせていただきました。症状について、治療についてのご質問、ご相談は、このHPのお問い合わせから行わせていただきますので遠慮なくご連絡ください。お問い合わせをしたから治療をしなければいけないということではありません。現在他の歯科医院で治療されていることにつてでも構いません。

少しでも顎関節症で悩んでいる患者さんが平和に暮らすことができることを願っております。

また、顎関節症についての情報もこのサイトで発信していきたいと考えております。

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